アイドル現場レポ日記

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「アイカツ!」実写化に際して藤堂ユリカのオタクが思うこと

藤堂ユリカ様を信じられていなかったのは私の方だったのかもしれない。

 

アイカツ!無印が実写映画化される告知が出たその日、私は泣いた。恐ろしすぎて。ユリカ様はあのアニメの中にこそ存在していて、三次元、しかも吸血鬼でもなんでもない人間にユリカ様の演技なんて、できるわけがない。ユリカ様の気高さは混じりけがなくて、自分が信じた吸血鬼としての藤堂ユリカ像を自分を装置として再生する姿は、誰かがーーしかも三次元の、生身の人間が、真似をしようと思ってできるものではないのだ。アイカツプラネットみたいに実写前提ならともかく、よりによって無印。

オタクの友人が自ジャンルの実写化を見て「思ってたより全然よかった」とか「監督原作読んだんか?」とかいろいろ言っているのを、これまでも横目では見てきた。だけどまさか、アイカツ!の番が来るなんて思ってもいなかった。なぜか自分が好きなコンテンツは実写化不可侵の聖域だと思っていたけど、全然そんなことなかった。

キャスティングもなんとなく名前を聞いたことがあるような気がするくらいのアイドル?タレント?で、この子はちゃんとユリカ様を理解できるのだろうか、ただ顔がかわいいだけで、話題性があるというだけで配役されたのではないだろうか、とずっと不安だった。

映画公開前に少しずつ解禁されていく情報は、怖くて薄目でしか見られなかった。実写映画だって立派な公式情報なのはわかっていても、何かとんでもない解釈違いの地雷を踏みぬいてこられる妄想ばかりしてしまう。(それでもモノを集めるタイプのオタクの性でアイカツカード付きのムビチケだけは買った。)

どんな出来だったとしても公式がGOサインを出したユリカ様の情報が増えるのだから見ておくべきVS実写化したユリカ様はユリカ様以外のノイズが混じりそうで嫌だ、のせめぎあいのまま公開日を迎えて、封切り直後に見るなんて芸当はとてもできなかった。開封もできていないままのムビチケはこのままコレクションボックスで眠っていてもらおうかと思っていたとき、Discordの通知が鳴った。

『見た方がいいよ』

オタク仲間の友人からの、主語も目的語もないメッセージだった。実写化をさんざん不安がる私の代わりに見てきてほしいという懇願を、アニメのあかりジェネレーションあたりまでしか見ていないのに聞き入れてくれた友人の、たった一言のメッセージ。これ以上ためらいたくなくて、当日夜の回の残り少ない空席に予約を滑り込ませた。

 

***

映画館を出て最初にしたことは、エンドロールで覚えたユリカ様役の人の名前の検索だった。

【映画「アイカツ!」キャストインタビュー】アイドル・神崎蘭子が想う”藤堂ユリカというアイドル”

検索結果の上の方に出てきた記事を読む。

『彼の吸血鬼の末裔のペルソナを与えられんとしたとき、我の内なる炎は更にその熱を上げた。我が偶像として生きる術は、彼の者から天啓を受けた部分も数多ある。(藤堂ユリカ役が決まった時、すっごくうれしかったです! 「アイカツ!」はもともとアニメを見ていて、アイドルとして参考にもさせてもらっていました。)』

なんか文字数の多い変な記事だったけど、ちゃんとユリカ様のことを大好きな人がユリカ様に近づこうとしてくれたことはわかった。

実写で安っぽいウイッグにされるのではないかと心配していたユリカ様の縦ロールは、神崎蘭子さんの地毛で寸分たがわず再現されていた。ユリカ様が外で日傘をさしているシーンで肌に日光が当たるカットが1ミリもなかったのは、神崎さんの申し出によって実現されたこだわりだったらしい。ロリゴシックのドレスがアイカツカードからそのまま抜け出てきたようなクオリティだったことに、神崎さんは飛びあがって喜んだと、インタビュー記事には書かれていた。スペシャルアピールの撮影は本当にトランポリンを使ったらしい。

結局、映画は全編通して私が心配していたようなことは何一つ起こらず、私が大好きなユリカ様はユリカ様のままスクリーンにいてくれていた。むしろ、アニメの作画だけではわからなかった睫毛や肌の質感も、二次元で理想化された体型でしか着こなせないと思っていたスターライト学園の制服が似合う三次元の人間がいるという気づきも、この子がユリカ様を演じてくれたから得られたものだった。

かんざき、らんこさん、と声に出してみる。ずっとアニメのオタクをやってきたから、自分と同じ次元に存在する人のことが気になるのは初めてだった。アニメやキャラクターを”解釈”する推し方しか知らなかったけど、神崎さんは私が”解釈”なんかしなくてもそこに存在していて、まだよくわからないけど、それはとてもすごいことのような気がした。

『見た。よかった。ありがとう』

Discordに返信を打ち込む。ユリカ様を好きな人がユリカ様をやってくれたことがふつふつとうれしくなってきて、SHINING LINE*を聞きながら帰ることにした。